ルームチューニングの役割は大きく分けると三つあります。
一つはバランス変更。定在波などを始末するなども此処に入る。基本的には大掛かりですな。AVAAなどの飛び道具も入ります。究極の大掛かり装置としては石井式や有孔ボードを利用した吸音壁など。
二つ目は反射のコントロール。近接効果などの低減やフラッター等の始末なども此処に入ります。
と、此処までが従来の音響…一般的オーディオファイルや音響設計の世界。だが第三の世界がある。そしてこれが非常に大きい。『空間操作』という世界ですね。従来のルームチューニング材ではなかなか十分には触れないので難しいのですが。
上記2つに加えてこれがあれば部屋の大きさは全くアドバンテージにならない。どのような猛者がどう聴いても『巨大な部屋で聴いている以外の何物でもなくなる』所まで方法論を構築しました。
その方法論の前に『大きな部屋はなぜ強い?』という事を紐解く必要があります。
その前に折角なのでルームチューニングの総論を一応リンク貼っておきます。部材の各論はホームから検索で『ルームチューニング』と入れて頂くとたくさん出てきます。
さて、大きな部屋の強さは三つ
1.低音が良い。
そらそうよ。でも何で良いかは意外とお分かりでは無いのではないか?と。
まあ寸法比の問題もあるので本当に大きな部屋が良いとは言いきれませんが。寸法比とは縦横高さの比ですが、これによりピークディップの出来やすさが変わります。六畳間はこの点では実は非常に優秀です。つまり大きな部屋はどれだけ天井を高く出来るか、という勝負でもあるわけです。
さて、部屋の容積によりある一定以上の帯域がf特、残響時間ともに盛り上がります。これをルームゲイン(部屋利得)といいます。それが大きい部屋はかなり無視が可能になる。それが大きい部屋の有利点になります。
超低音が増える分には良さそう…と思うかも知れませんが、そんなことはなく残響的にもアンコントローラブルな物になるので良いものではありません。
2.壁が遠い
身も蓋もない書きようですね。これは近接効果等に影響します。一時反射する壁は遠い方が良い。…とも言いきれないので難しいんですがね。上記のリンクにありますが、ある程度の性質の初期反射音は豊かさと奥行き、更に後期反射(残響)の左右差により両耳相関係数といって広がりを感じるようになるのでただ広い部屋もまた困り者です。スピーカーの後ろはコーナーANKHのように拡散すると大変豊かでよろしい音になります。逆に此処を吸音するとモニター的とも言えぬ不自然に貧相な音になる。
とは言えこの一点ではやはり圧倒的に広い方が有利でしょう。ただ対策も簡単なのでルームチューニングありなら大したアドバンテージにはなりません。
3.残響の時間軸のシェイプ
なんだか分かりにくい言葉を書きました。しかし三番目のこれが非常に大きいのです。良く横を時間軸、縦を音圧でプロットしたグラフがありますが、アレを無限に集めた(あるいはそれ以上の)物です。人の耳以外では判断不能です。
これこそ大きな部屋のアドバンテージの根元でありつつ、コンサートホールの善し悪しは此処に帰結します。裏を返せば此処を調えれば善きコンサートホールにも大変な広さをもつ箱でのライブ会場にも変貌します。今回の主題でありターゲットです。
残響が時間により初期反射は元よりそれによりどのような減衰の経過を辿っていくか…これはよくある測定では無意味です。多少三次元的にシュミレーションしたって不足です。周波数やどの方向からの音かによって大きく聴感の結果が変わる超高次の難解な物であり、人の耳の凄まじさを物語ります
例えば下のシミュレーションでは到底周波数や方向性、さらにそれぞれ別々の周波数の時間軸的推移を勘案できません。
これが測定でなんとかなるならコンサートホール設計はもっと確実ですが、現実的には造ってみなければ音は全くわかりません。そして造ったあとに必死で聴感と手でホールを調整していきます。最新のホールでも、です。
閑話休題
そんなわけで『時間軸でのアプローチ』なのですが丁度良い例がsony music studio様での360reality audioのデモでたまたま体験させていただきました。
例えば広大な会場でのライブでまるで本当にその広大な会場にいるとしか思えない体験が可能なのですが…上方向からのスピーカーからアンビエントを流しているのですが、それを切ると途端に狭いモニタールームの大きさになりました。
要はアンビエントが空間の大きさの印象を非常に強い影響力を持っていると言うことです。
無論メインスピーカーからそのアンビエントを流してもそんなに意味はないのです。方向性が大事なのですから(これはコンサートホールの学術でも明らかです。)
でもそこまで広大な空間を特に広くもない場所で感じた事はありますか?ないですよね。だから一般的なオーディオファイルは大きな部屋を欲しがるわけで。それは従来のルームチューニング材では不可能だからです。
そこにアプローチする方法論を構築しました。
次回やります