360 Reality Audioという未来を体験してきた


360 Reality Audioのスタジオの設計の依頼があった

マルチチャンネルは散々やっていたし他所でも色々とプロデュースはしてきたので『概ねノウハウは通じるだろう』と思いお引き受けした。オーディオ的な話は後半で。

さて、そういう流れでSONY MUSIC STUDIOにお招きいただきました。360 Reality Audioの真髄を理解するためです。

結論から言うと『遥か先の未来を見ました』。恐ろしい規格です。その没入感たるや…。

特に案内して頂いた三浦康嗣氏が元はステレオ楽曲を360 Reality Audioに仕立て直した曲(128トラックを使いきった力作)を聴いた時は没入感…という言葉では書き表せない大変な体験でした。

しかしこの技術の普及の着地点はヘッドホンにあります。果たしてヘッドホンでどの程度の事が出来るのか?

13個ものスピーカーで聴くと凄いというのはわかりやすいですが、ヘッドホンの音たるや幻術の如しです。頭部から離れた広さに見事に球形に、縦横無尽に何処にでも音が配置、定位されます。ヘッドホンで聴いてるとは到底思えません。事前の『まあこのくらいなんだろうな』という予想とはかけ離れていました。

しかし理想論はスピーカーでキャリブレーションなされることで、キャリブレーション無しとはかなり差があるようです。

次善の策として『耳を写真で撮り送るとそこからシミュレーションしてキャリブレーションデータが送られてくる』サービスもあります。しかし測定自体は極めて短いので各地域で気軽にスピーカーでキャリブレーション出来る施設が欲しい!現在は世界に3ヵ所しかありません。NY、LA、そして東京です。東京には凄まじい施設(フォーカル3wayをパッシブで43チャンネル!)でキャリブレーションを行ってくれるMedia Integrationの施設があります。

既に15000曲(!)360 Reality Audioの音源になっているとのことですので音源には困りません。後は再生するストリーミングサービスですがAmazonMusic unlimited(キャリブレーションが使えない)やnugs、そしてtidalです。

これを読んでいる好き者は兎も角として()一般聴衆は日本で未導入のtidalは壁があります。この再生サービスとキャリブレーションの壁さえ突破出来れば世界を征するだろうに…と思っています。Qobuzが日本に参入する(らしい)ので此処はtidalも参入をして欲しいですね。

とにかくこれが普及するかしないかは音楽業界の未来を(大きな意味で)左右する…というか在りし日のような大音楽時代になるのでは、とまで夢を見れます。


さえ此処からはオーディオファイルかマルチチャンネルまでやるエンジニア向けの内容に。ホントに簡単な勘所です。まあいつものMonsterAudioですな。

サラウンドはステレオの文法とはまるで違う。簡単に地雷だけ書くとまず『ステレオ感覚でスピーカーを選ぶと死ぬ』という所だろうか。多くのマニア宅で『好きなステレオスピーカーに色々足してサラウンドにしました』とやって爆死した光景をあまりに多く見てきました。ステレオで聴く分にはクロスオーバー等により位相が回転しても問題はあまりないが、マルチチャンネルだと変な干渉を起こし大変な事になるのです。

同一メーカーすらダメな事は多いです。同一スピーカー、かつ出来れば同軸が良い。

次にこれは散々普段から申し上げているようにサブウーファーは『定在波の山谷を均一化しつつキャンセレーションで立ち下がりを猛烈に早く出来る』ので2台置くべきです。

更には部屋はステレオ向けよりはデッドであるべきです。音数がまるで違うことと、アンビエント自体が既に入っているので反響でマスクされ見えなくなります。とは言え高域だけ吸うような残響のf特が右肩下がりのダメなデッドは行けません。超低音まで吸いフラットにコントロールされた上でのデッドです。THXも『低音のイコライジングは部屋の音響をアコースティックに矯正してから最低限にするべき。』と言っております。

そして今回レクチャー&エクスペリエンスを受けた部屋に入って直ぐに内心興奮しました。何故なら上記で書いているような話が全て当然のように完遂されていたので。ムジークのパワード×13と、かなり珍しいムジークのサブウーファー×2。このサブウーファーの選択は慧眼で、サイドから放出される低音によるキャンセリングによりある程度定在波の影響を避ける事が出来る仕組み。デュアルサブであろうとも普通はディップを避けるために部屋の壁沿いに置かねばならない。音を聴いても非常に多くの環境に合わせやすいサブウーファーだな、と感じました。国内価格がやけに高いですけどね。

サブウーファーに関して詳しくはこれを御覧ください(少し修羅向きです)

なお後程判明するが今回レクチャーして下さったSONY株式会社 シニアエレクトリカルシステムスペシャリスト渡辺氏は当ブログでも良く題材に取り上げさせて頂いた故かないまる先生の愛弟子であられます。かないまる氏を知り尽くした方です。

渡辺氏はミュージックプレイヤーであり音楽エンジニアかつ(当然)機器のエンジニアでいらっしゃる。大変多才な方です

それは完璧に決まってます。


“360 Reality Audioという未来を体験してきた” への2件のフィードバック

  1. Torrinov の新技術のWAVEFORMING にも確かSony の名前があったと記憶していますので、サブウーファーはフロント、リアに合計6台以上推奨になるかもしれませんね。

    https://www.artistconnection.net

    で、イマーシブオーディオのロスレスストリーミング配信が開始?されたので今後が楽しみです。

    何年か前に、耳の形状を測定するヘッドフォンを試したことがあるのですが、前方に定位して楽しかった記憶があります。

    その時はオーディオよりはゲーム用の方が楽しそうだと思いましたが、今度は音楽に向いてそうです。

    かないまる先生の愛弟子というのが素晴らしいですね。

    • 6台の話はtweetなさってたので読みました
      これは…家庭用のレベルではない笑
      しかし論理的にはより平坦にキャンセリング出来るでしょうステレオフォニックに問題さえなければ…

      実際にスピーカーでキャリブレーションするか否かで雲泥の差ですが、ここは是非とも大阪、福岡、仙台、札幌、名古屋あたりにキャリブレーション施設を造っていただきたいです

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