高域がうるさいお悩み1 総論


質問欄からありましたのですが、さっと返答出来るレベルの内容では実は無かったりします。(無責任に答えると死にます)

さて、オーディオの二大メジャープロブレムです。ブーミーか、うるさいか。親の顔より良く見た問題。大なり小なり20年間向き合い続けて来た内容です。ようやく完全に無視出来るようになりましたが。

さて、これを本当にお答えするには本が上巻下巻書けるほど複雑です。一回の記事で終わらないですね。

大きく分けると原因は2つあり、また別の分け方をすると2つに分けられます。縦軸と横軸で四分割するみたいな感じと思ってください。

縦軸 スピーカー由来かそれ以外か

横軸 周波数特性的な由来か歪みなどの由来か

無論全部、とかがザラですがね。なおどんな理由であろうが一番簡単に誤魔化せる方法は『部屋やスピーカーの挙動含めて低音が過多だと滑らかに聴こえる』です。もちろんオーディオファイルが楽しんで聞く分にはよろしいのではないでしょうか?特にオーケストラとかは低音過多(というか収束が遅い)とデジタルでは原理的にも良く聴こえます。ただEDMやあるいはアコースティックでも再生が厳しい楽器(チェンバロとかね)はリアルとは程遠くなるでしょう。無論そんなものはスタジオ、エンジニアリングでは赦されません。というわけで直球で高域の問題と死合う事にしましょう。


さて、この中で一番どうとでもなる影響が軽微なのはどれでしょうか?

答えは『スピーカーの周波数』です。いわゆる軸上のf特が何であろうが、余程でない限りはなんとでもなります。部屋の残響のf特との兼ね合いで本当になんとでもなる。そもそも他の3つに比べれば此処だけがダメでも全然うるさく感じなくさせる事は容易です。というか測定値などまるで参考になりませぬ。

エンジニア様には良くお分かりになる話だと思いますが…ADAMってあるでしょ?そして今のところお会いしたエンジニアの95%は『高域が嫌』と言う。みんな言うのです。同感ですが。

でもADAMはアクティブならA以上ならば測定値はかなり綺麗です。周波数特性も軸外特性も綺麗です。測定値からするとうるさい理由など何もない

測定値など一つの因子でしかないわけですね。

何故ADAMはうるさいと云われ勝ちなのか?(なお我輩も昔持ってたのでエアプではない)

それは問題をつまびらかにするトランジェントが良いツイーターにも関わらず出来の悪いアクティブだからです。アンプの質のみならずその電源やそもそもスピーカーにダイレクトに揺らされることなどなどが特に目立つわけですね。周波数によらない問題が重複して襲いかかるわけです。こうなると…買い換えた方が早いです。AよりSシリーズだとマシになるのはツイーターの違いよりはまだマトモな中身になるからです。やはり特性の良いムジークがアコースティックを扱う人々(NHKでも)に受けが良いのはアンプが良くできているからです。

そしてこれを『見える』と言う方も居られるでしょうが『根元的なクオリティが低い環境で擬似的に見えるように感じさせる最も簡単な方法は歪みで輪郭をつけること』です。そう言うのを『見える』と言ってはいけないし、この前も書きましたがそう言う粗雑な出音だと『その音源が粗雑でも気づかない』わけですね。そうでなかったらこんなに折り返し歪みなど多様な歪みにまみれた粗雑な音源の群れをリリース出来ませんよ…。


さて、そんなわけで沢山の要因があることがわかりました。これで言えることは『これさえやればうるさくなくなる』という方法は存在しない、ということです。原因ごとに対処は変わりますので。例え上でくそみそ言ったADAMですらある程度何とか出来ないわけではない。では次回から各論に移りましょう。


“高域がうるさいお悩み1 総論” への7件のフィードバック

  1. グルマンさん、こんにちは。

    オーディオの核心の一角に迫るトピックで、読者として関心が高いとともに、気合が入らざるを得ません。これからの記事を楽しみにしています。

    で、この記事の中の以下の箇所ですが、

    「特にオーケストラとかは低音過多(というか収束が遅い)とデジタルでは原理的にも良く聴こえます。」

    この、デジタルでは原理的にも良く聴こえます、というのはどういったことなのか、少し詳しくご説明いただけないでしょうか。

    • 語るととても複雑で長くなり、かつ論理と感覚が入り交じり整合性を持って上手く説明できるか途中あやしいところもありますが、まずオーケストラ録音とデジタル、アナログ双方の比較です
      まあとにかく徹底的にダイナミックレンジの問題ですが沢山問題が随所にあるのです。
      まず一見低音と関係無さそうな問題から。
      原理的にデジタルは高域ほど音量が小さい1/f分布で収録されてます。特にCDの器だとそれが致命傷になり、物凄く高域がダイナミックレンジがなく、また歪みの塊となりまともな再生は絶対に不可能です。
      https://audiodesign.co.jp/blog/?p=909
      ここら辺が分かりやすいかもしれません。
      オープンリール→ハイレゾとかなら幾分かよくなりますが…とはいえ歪みの問題は残ります。
      そしてここだけ説明が難しいのですが、まず高調波などから、あるいは人間の聴覚として低音は高音の影響を強く受ける、のはオーディオに携われば自明です。
      更に高域の歪みを聴感的に何とかごまかすためには低音を増やすしかないのです。(これは多くのオーディオファイルが感覚的にわかるかと)例えば高域がウルトラデッドだと高音が穏やかに聴こえますが似たような現象です。

      これが問題の一つ

      二つ目、まずコンプレッサーです。コンプレッサーは1920年代から登場しましたが、1960年あたりからめちゃくちゃ使われるようになりました。コンプレッションは低音こそ影響が甚大です
      オーケストラの120dBに及ぶダイナミックレンジを…まあそもそもハイレゾ以外では規格的にそもそも不可能なのでコンプレッサーは当然なのですが、器とは関係なくコンプレッサーをかけないと普通の環境ではダイナミックレンジ的に大変なことになるのと特にワンポイントではモコモコしてHi-Fiではなくなるのです。
      そこを何とか死ぬ気で挑んだのがリファレンスレコーディングですが、ウルトラな数のマルチマイクでモコモコをクリアしつつ24bitを存分に使ったダイナミックレンジを達成してめでたし…と言いたい所ですが恐ろしく再生が大変でリアルな音量にすると大音量部分で凄いことになり、さりとてそれを下げると小音量…特にコントラバスが99.9999%のシステムでまともに聴こえません。高能率かつ全てが理に叶ったシステムでないとハイエンドでも到底叶いません。
      これはフレッチャーマンソン曲線(言い方が古い?)も影響します。音量が小さいと低音を増さないと行けません。
      なのでこれはデジタルアナログ以前にオーケストラ自体が低音を増さないとまともなバランスになりようがないのです。

      多くの要素を無理矢理縮めて書いたので繋がりが微妙なところも多く取り留めないですがざっくりこんな感じです。
      まとめると元々オーケストラ録音自体が無理ゲーで聴覚的に低音を増す必要があるところにデジタルの原理的な高域の歪みやダイナミックレンジの不利を代償するため更に低音を増さねば心地よく聴けないのです。

  2. 大変なご説明、ありがとうございます。面倒な質問となり、すみませんでした。

    いろいろな要素が絡んでいることがわかりました。自分の理解が正しいのか自信がありませんが、自分なりに整理してみますと、

    1.デジタル録音では高音域が原理的に低いレベルになるため、S/N比面で不利(デジタルでは音楽信号は1/F分布しているため)。

    2.デジタルにおける問題の多い高域の質をカバーするため低域を増やす必要がある(低域の量で高域の粗をある程度隠せるため)。

    3.オーケストラ録音でのダイナミックレンジの限界から、再生する音量にも制約がある(ある程度、小音量にせざるを得ない)ため、小音量時に低音を持ち上げる必要がある(フレッチャーマンソン曲線)。

    特に1,2は、デジタル由来の事柄であり、「特にオーケストラとかは低音過多(というか収束が遅い)とデジタルでは原理的にも良く聴こえます。」ということになる。

    といった感じでしょうか。

    • 概ねその通りです
      例えばレコードだとデジタルと同じ音源でも、かつ極まったデジタルに比べて雲泥の差の地力のアナログシステムであっても『どうしようもない位アナログがオーケストラはリアル』です。無論他の小編成やジャズ、ボーカルはデジタルがどうしようもない位上回りますが。
      そして高域のSNや桁違いの歪み率『だけ』とは思えないくらい全てに差があるのですが、そのアナログと同等のオーケストラの雰囲気、リアリティーを出しているデジタルシステムは経験則上『他の音源ではニュートラルとは程遠いくらい低音過多ないしは終息が遅い』んですね。EDMなんて聴けたものではない。自然音や物理特性の厳しい楽器も無論本来とは程遠い。例外は無いです。
      そこまでの差は上記では理屈で説明が付かないです。
      まあ高域が他の帯域に聴感的に及ぼす相互作用は大きいですが。他にもチャンネルセパレーションの圧倒的な差や高域のレンジがレコードは狭い事(40万の法則、というのがありましてそこからするとデジタルは低音が圧倒的に必要になる)など他にも原理的に想定されるものはあります。

  3. グルマンさん、早速のご返信ありがとうございます。

    “例えばレコードだとデジタルと同じ音源でも、かつ極まったデジタルに比べて雲泥の差の地力のアナログシステムであっても『どうしようもない位アナログがオーケストラはリアル』です。”

    当方、聴く音楽は8~9割がクラシック、そしてオーケストラが多いので、本来はアナログの方がいいのでしょうね。しかし、住居スペース等々の制約から、デジタル・ストリーミング(Roon)かつヘッドフォンによるリスニングにほぼ特化しています。

    で、アナログと同等のオーケストラの雰囲気、リアリティーをだすために、「低音過多ないしは終息を遅くする」のは、具体的にはどういった方法でアプローチするのでしょうか。ヘッドフォン中心のシステムでも可能なのでしょうか。急ぎませんので、何かの機会にご教示いただければ幸いです。

    • ヘッドホンで、ですね
      ちょっと宿題にさせてください
      ヘッドホンだろうと必ず通用する手法、ノウハウ、ポイントは浮かびますが実際に試してみないと行けません。
      スピーカーなら経験値が極限ですがヘッドホンは浅いのです
      色々と追試してみます

      • 早速、ありがとうございます。実際に試していただけるとのこと、深謝いたします。

        一応、当方の使用機材ですが、HPはFinalのD8000とHEDDのHEDDphoneです。HPアンプはMytek ManhattanII内蔵のものを使用しています(いろいろ物色したものの、手頃な価格で内蔵のものを明らかに超えそうなアンプが見つからなかったため)。

        急ぎませんので、よろしくお願いいたします。

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