中川氏の卓越した技


弟子が『ちょっと聴いてみていただきたい』とある曲のダウンロードリンクを送ってきた。perfect world、という曲だ。購入して我が魔界のシステムで聴いてみた。過去に経験したことの無い何かの打楽器のような音がするが実に鮮烈で、また曲も前衛的で複雑、とても素晴らしかった。なんだかクセナキスあじもする気がしないでもない。買って良かった。

聴いてから詳細を見るとTwitterでいつも拝見しているお名前があった。

中川統雄、という作曲者/マスタリングエンジニアだが音楽理論等はずぶの素人の我輩から見ると『何だか恐ろしい人』『何だか物凄い人』というイメージ(失礼千万)だった。海原雄山と岸辺露伴を足して二で割ったような。わかる人はわかるでしょ?そして曲のダウンロードサイトがあったのか、と知った。

https://norionakagawa.stores.jp/

そして曲の解説を見ると…ええ、これ打楽器じゃなくて人の声!?人間が出せるのかいコレ?(マスオ風味)

いや、発声は多少なりとも識っているので(喉の音かな)とかはわかるがそれにしたって普通こうはならんでしょう。

で、前からTwitterで名前は知っていた通称『アンキティキティラ』(the secret of Antikythera)という曲がハイレゾでリリースされたとの事でこれも買った。なにやらマスタリングする前と後のバージョンがあるらしい。そんな企画はじめて見ました。そらオーディオファイルなら両方買うよね。

聴いた後で確認したが打ち込みらしい。まずはマスタリング無しから聴く。複雑で前衛的で大好物な感じです。ヘビロテで聴くでしょう。弾くの死ぬほど難しそう。我輩は何十回か転生しないと無理です。なお我輩は音楽理論の素養がほとんど無い『音』という事象の分析に特化した超オーディオモンスターなのでこれが凄い高度な作曲なのかは何もわからない。逆しまに言えば理屈ではなく感覚的に『凄く良い曲ですね』と思いました(小並感)


で、これはオーディオブログなので音質だが…先に断るがこの通称『魔界』のオーディオシステムは今や間違いなく日本一の検聴システムだ。f特、残響のf特、全帯域の立ち上がりと収束の速さ、位相特性…つまりあらゆる意味で時間軸は極まっている。なのでどんなスタジオや如何なるハイエンドオーディオファイルのシステムでもまず聴こえようがない物が聴こえてることを念を押しておく。

マスタリングしてない方は、そもそも聴いたときは先入観で生と思い込んでいたのだが距離感は『オフ』で、かつ幾つかのパラメーターで残響がシンプルだった。

まずピアノ自体の残響…なんと言えば良いのか難しいがバレンボイムピアノのような単音の響きとも違う。『うーん、どう録音したらこうなるんだろう』と思ってたら打ち込みでした。ビックリ。最近の打ち込みって凄いですね(年寄り感)弦の振動の干渉とかはないけど他はピアノの自然の摂理すらかなり再現してます。生からサンプリングしてるとは言え凄いですよ。日進月歩の分野ですね、打ち込み。

二つ目にホールトーンというか空間情報がない。屋外で弾いてるよう。このような録音は過去に経験がなく、これが特に『どのように録音を…』と悩ませた理由です。

だって打ち込みのピアノ独奏は初めてなんですもの。打ち込みならなるほど、そらホールトーンは無いよね、です。

次にマスタリングした物を聴く。ボリュームが一気に上がったようで肝を潰す。少し高調波が立ちオンに聴こえる。グッと前に出てくる。また先の本来のピアノの振動の干渉的な物すら擬似的に感ぜられ生々しい。マスタリングで何をどうやったらこうなるのだろう?位相回転の結果とかなのだろうか?マスタリングに俄然興味が湧いた。音の構造と聴覚の相関はほぼ手に取るようにわかるのだがマスタリングでの具体的な手法に興味津々。

というか最近まさかのマスタリングの簡単なアドバイスをしていた。音そのものに誰よりも濃密向き合い続けて20年余が経ち、最近音の構造と聴覚の関係を突如悟ったので『この曲のこういう音が作りたい』と言われると『こうすればこうなるのでは』と予想が立ちます。というかそのくらい出来ないとオーディオの極限の調整は出来ません。なのでますます『機器やケーブルのヒエラルキー』なんてものは無くなり『音の要素の集合体』にしか見えなくなった。もうオーディオの聞き方が人類と全く別物になってしまいました。

ただマスタリング前後のどちらが好きですか、といわれると…極僅差でマスタリング無しです。あ、石を投げないでください。というのもこれこそ良くできたスタジオでも再生しようがないのですが(収束と高調波の問題で。最近のATCとかの位相制御してるアクティブでも無理)各周波数のタイミングがずれている結果ピアノの発音機構の音の流れがずれ、また残響の収束のタイミングがずれ自然の摂理から少し外れている(打ち込みなのに自然の摂理っておかしいんだけどね、元が凄いともいえる)。これは決して休止符の時の話ではなくガンガン弾いている時にでも聞き取れる物です。そしてこれについてはスピーカーセッティングさえ完全ならば魔界でなくとも容易に聞き取れる範疇ですが、アナログ時代の録音をリマスタリングすると空間情報が大きく変わってしまいます。


この曲は普通に聞き取れる音は『聴感的に劇的に生に近づける』驚異のマスタリングだと思います。超人の類いです。オフなピアノの打ち込みが眼前もしくは弾いているような距離に、かつちょっと欠けていたピアノの共鳴、ボディの音を再現しております。極まったマスタリングって此処まで出来るんですね。本当に勉強させて頂きました。このマスタリング前後を出すという企画の見識に平伏するしかありません。そして後述しますが『ホールトーンがないが故に禁欲的な音のアンマスタリングを自然の音のパラメーターの別の側面で大きく改善し、ある意味自然になっている』とも言えます。ただ『再生が普通は出来ない聴こえない部分』はどうしても変わってしまいます。しかしグルマンという魔物は何という面倒な奴なんだ。はーっ、グルマンよ死ね!

ただ今回は打ち込みが故にマスタリング無しはオフでも部屋の残響がない。なので屋外とまでは言わないが何かそう言う広大な所でオフマイクで録音した感じになり、それはそれでホールとかでの音楽鑑賞とは違う。ある種禁欲的な音とも言える。こんなホールでは多分あまりチケットは売れない。なのでこのマスタリングはその矛盾を解決し、大いに必要なものだとは思います。

皆さん、買いましょう。両方。これだけの物が売れないと業界の前途が昏いですからね。

https://norionakagawa.stores.jp/


“中川氏の卓越した技” への10件のフィードバック

  1. デジタルファイルオーディオとしては極まっている魔界ではハイレゾ音源の評価はいかがでしょうか。巷ではCD>ハイレゾ論も散見しますが、それなりのCDプレイヤーとプアなPC環境で比較すれば、そりゃそうなるよなと思うこともしばしばです。魔界で同音源のハイレゾダウンロードとCDリッピングを比較した場合、どう評価されますか?

    • 圧倒的にハイレゾです
      まずCDが良いというのはハイレゾの微小信号が再生できてないからです。無論PCがプアなのですね。そうでない条件でCDが上という人は見たことがありません。聴感的には質感、情報量が明らかに異なります。論理的にはそもそも16bitはダイナミックレンジを全く再現できません。特にオケとかノイズの山に埋もれて全くダイナミックレンジが取れない計算になります。
      周波数も44.1khzはさすがに厳しいです。最低48、出来れば96は欲しい。コンプをかけてなく、また位相回転を起こしてないまともな録音だと各周波数毎に聴き比べると明らかです。また高い周波数になるとジッターなどに弱くなるので尚更強力で練られたシステムが必要です。良いクロックでCDが100良くなるならハイレゾは500良くなります。
      無論私は古今東西のCDメカ、トランスポートを相当知っている方なので何を持ってきても、です

      • ご返答ありがとうございます。魔界では圧倒的にハイレゾですか。まあ魔界ほどの環境など他にはないので再現性はあまりなさそうですね。

        • 他の強いお宅でも同じ音源をDSDなど色々聴き比べさせて貰ったりしましたが、やはり差は明らかです。(Linn DSM3使用)

          • ただデジタル段の強さ云々と同等以上に例えばスピーカーセッティングなどの要素、あるいはシステムがある程度の範疇で理に叶ってるかのほうが大きいような気もします
            何故なら高額でなくとも全然差が出るシステムはあるからです。

          • 24bit以上のハイレゾPCMとDSDの違いはどう評価されていますか?

          • 極限られた音源は32bitの有利性はありますが、特別に録られたオケや意外と打ち込みくらいしか有利性はないですね。オケも余程凄い録り方しないと32bitのダイナミックレンジの下限より録音に纏わるノイズのほうが上回ってしまいます。打ち込みは録音に纏わるノイズが無いのである意味使い倒せる録音は(希に)ありますね
            周波数も本当に近接で音だけ録りました、無加工です、というソースだと192khzとかの威力は誰の耳にも明らかです。
            しかし良く言われる事ですが、ハイレゾは周波数よりはbitの方が意味が大きいです。16bitでオケとか多大な歪みと多くのメイン楽器(バイオリンソロパートとか)は30dbから40dbとかの非常に狭いダイナミックレンジしか確保できません

            対してDSDですが、やはり情報量や質感が歴然とした有利さを持っています。とはいえDSDの規格次第ですね
            DSD64だと有利性は感じません。ハイレゾに負けるかも。
            256あたりから露骨に良くなります。

  2. 24bit≒32bit<DSD11.2MHz

    といったところでしょうか。ご返答ありがとうございます。

  3. 個人的に、自分の周りはCDより悪いハイレゾが多いよ。🤣

    分かってますがね。

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