オーディオ史上屈指の生字引なので無論かなり氏のコンポーネントは経験しております。
まず氏は非常に尊敬しております。経歴やその技術の非常に後半な博覧ぶり。デジタルからアンプ、スピーカーまで凄い設計(特性も凄い。)それでいてアフターサービスは凄かったです。
ただ常に完全である設計者は居られません。それは『凄い人間は成長し続けるからこそ今凄い』わけで。では色々ご紹介しましょう。
総論からですが、基本的には速度、位相、パワーを旨としつつ温度感が高い音です。生と録音を知り尽くしているが故にその間に劣化しがちな鮮度を重視しているようです。
まずCDが普及し始めたあたりの伝説的設計者、という事が特記されます。フィリップスのCD機器は伝説的ですが(LHH2000とかね)Rが付く物はフィリップス名義でありながら設計、開発は日本marantzでした。それが鈴木哲氏の設計なわけです。割りと既にハイスピードな鈴木サウンドでした。例えばLHH500Rとか有名ですが、これもLHH500より明らかにハイスピードでブレが少ないです。アンプも作ってらっしゃいました。
これはLhh-a200というプリメインアンプです。箱が豪華。
次に有名なのはmarantz professional名義で作られたプロ用アンプ群でしょう。PA01とかあとフェーダーのプリもありましたね、AF01。
何故かガレージメーカーが気に入っており色々な所でカスタムされてた記憶があります。ただ…炎上しそうですが『どれもこれもパワーアンプは微妙でした』()
それこそオーディオの辞書ですからめちゃくちゃ色々聴いてますよ?あらゆる環境であらゆるガレージのも、あるいはオリジナルのままも聴いてます。なんならマルチシステムすら聴いてるね。その上で『荒い』んです。鮮度を取るあまり何かを損なってました。理想は『鮮度も品位も低歪みも位相も全てを損なわない』なんですが、それは恐ろしく難しい事です。
しかしどうしてもオーディオの歴史は『まだ総合的に技術が足りないから何かを取って他を捨てる』のが普通でした。極端なものだと昔のJBLなんてホーンレンズとか物理的にあってはならない設計ですが、ジャズ…特にシンバルは物凄くリアルでした。大型ホーンHL91とか。蜂の巣も1つの世界です。ただ『正しく正解に持っていく』事が出来ないと『何か無理矢理そこを埋める為に他が辻褄合わなくなる』のです。それは現代ハイエンドでも大なり小なり残っています。
そしてその後ソウルノートを設立なさるわけですが、私は非常に高く評価してます。バランスの取れた音になったと…。温度感も一番普通かも知れません。CD1.0やCT1.0及び電源別筐体のDAC、MA1.0などの組み合わせでB&W805シリーズを本当に素晴らしい再生を見せてくれました。普遍的で汎用性がありました。値段も音や造りが信じられないほど。特性も尋常ではありません。今やあのようなコストパフォーマンスの機器はまず有りません。
そして現fundamental。
更なる特性と『他人に任せられない』と自分で半田付けまでやるどころか『市販のコンデンサは特性がばらついて使い物にならない』とスピーカーネットワークのコンデンサを自分で巻く執拗ぶり。
スピーカーはホントに良かったです。認知と能力が足りなかった時期なので今なら遥かに良く扱えたでしょう。名前は書きませんが、国産の遥かに高額なスピーカーを『満場一致で』葬りました。位相と速度、付帯音のなさは凄まじく見かけより遥かに低音が…ビックリするくらい出ます。まあ対向型サブウーファーは欲しいですが。サーロジックとかFUJITSU eclipseのサブとか使ってましたね。それも我輩の実力不足で微妙でしたが。AVAAも無かったですしね。なおネジのトルクも厳密にしており触れません。
次にパワーアンプ。背景がかつて存在しえない『漆黒の音』でした。特性がオーディオデザインやスペクトラル、ゴールドムンドを捩じ伏せる最強の実装能力ですから。またBTLにしてもまるで位相が狂いません。バイアンプやBTLは大抵の場合、個体差による位相の狂いが非常に気になるのですが『後で追加しても全く問題がないように』全台特性を合わせてます。パーツは元より半田でずれるらしい。無論コンデンサの方向もバッチリでしょう。
ただBTLかどうかで駆動力がまるで違い、2台ないと真価は発揮されません。かつちょっとhotな音でそこは好みが別れそう。ソウルノートの全盛の製品よりhotな気がする。スピーカーがクールなら特に良さそう。
振動が問題になるトランス自体からスパイクが筐体を貫通して直接支持する。またヒートシンクも明らかに鳴きが少なそう。確実にわかっててやってらっしゃる。ヒートシンクの音への影響力は大きいです。
また天板などが他のパネルに触れないように出来ており、蓋の悪影響を明確に理解しております。いまでこそ現soulnoteやESOTERICが真似してますが、非常に先進的でした。魔界の『卍解思想』にも通じます。
なおケーブルですが、これは…微妙。この手の極細単線ケーブルはハイスピードではあるのですが振動が制御しにくいのでそれによる歪みが載るんですね。特に絶縁体が恐ろしく薄く、また、固いので取り分け振動します。というかテフロン物は基本的にその傾向が強いです。これを回避する方法は良くあるハイエンドケーブルの文脈だと『複数の素材と適切なテンション、導体の構成でバランスを取る』わけです。ただバランスは優れてても付帯音と鈍重な響きからは逃れられません。オーディオ人生の集大成の結論は『むしろもっと細く、もっと絶縁体を薄くする』事です。要は0.1mmエナメル線になる。0.2mmだともう付帯音があるんです。もっとも使用場所によっては容量が足りず微妙になりますが。さもなくば『ハイスピードな物を切り貼りしてバランス取りをする』ですかね。癖もそれにより均質化出来る。とは言えこれが出来るメーカーは1つか2つしかありませんが。
ハイスピードと称しつつ付帯音が載りパキパキして音数が少ないケーブルも見られますがこういうのこそ何かを引き換えにすること無く、また誤魔化しではない真のハイスピードです。
プリは恐ろしく凄い特性ですね。常軌を逸してます。ただプリは評価は難しいジャンルなので大きな事は言いにくいんです。プリは『名器』と言われる物は実際名器であることが多く(LNP-2とかcelloのとか有名ですね)、それらは基礎性能はともかく音楽的なバランスが素晴らしいわけです。劣化を遥かに上回るプラスがプリに求められます。無論劣化が少ないに越したことはない。これはパワフル、漆黒、大きな癖なし、基礎性能は高いです。それでもシステムに合う合わない(例えば温度感的に)、あるいは最も純粋かつ高度な『複巻きトランスアッテネーター』に負けるケースもあるでしょう。ただほとんどのプリが『煮ても焼いても食えない』所を、これは及第点に十ニ分に達しています。ただfundamentalで全て揃えるとhotなんですよね。むしろ『何と混ぜても上手くマッチングする』のが売りな気がします。どの機器も汎用性があります。
“レジェンド鈴木哲” への16件のフィードバック
早速物凄く読み応えのある記事を本当に有難う御座います
そのレジェンド本人が自信もってお薦めしてるPA10ですがこれも巷のプリメインとは逸脱したものでしょうか?何だかよりアツそうですがw
そんな沢山の環境で聴いたわけではないのですが、非常に良くできたプリメインアンプだと思います。というかプリメインアンプの枠内に入れるものではないですね。
やはり漆黒の背景はセパレートと同等以上で、BTLの駆動力はありませんが(そりゃそうですが)むしろよりニュートラルな印象すらあります。そんなにhotではない、ですね。パワー一台+プリなら、私はこっちを選びます
駆動力が必要なスピーカーでなければむしろこっちのほうが良いこともあり得そうです。
興味深い記事をありがとうございます。
MA10Vの音を聞かれたことはありますか?
MA10をBTLで使用していますが、Vにアップグレードすべきかどうか悩んでいます。
理由は
・MA10でかなり満足
・2台で77万円とかなり高額
・お店も聞いたことなく、情報が出てこない。ステレオサウンド記事は参考にならなかった。
もし聞かれたことがあるなら、その印象を教えてくださると嬉しいです。
一度イベントで聴きましたがそれだけかつ私が行った時は直接の聞き比べはしませんでしたので、あまり断定は出来ません。
確かに2台アップグレードだと1台買えてしまう値段です
私の印象としては『更にクリーンかつ多分前より生き生きとパワフル』『ややhotさが良い意味で下がった?が音数も増える』感じでした。
ただ『聞き比べなしでも明らかで圧倒的向上さがわかる』レベルではなく、値段の価値は微妙な微妙なラインです
即レスありがとうございます。
>値段の価値は微妙な微妙なライン
迷いが吹っ切れました。
ゴールドムンドのデジタル伝送(24ME+telos350)からシステム変更して、漆黒の音と共に、十分にクリーンで生き生きパワフルな音を堪能中です。
グルマンさんが「微妙」とおっしゃるなら、多分私には聞き取れないでしょう。
彼の作品は分かっている方が使えば良いのであって分からない方が使って欲しくないですね~。👍
まさにそうですね
演奏~録音(機材も制作)~再生の全てを知り尽くしているちょっと他にあり得ないような方です
しかも『オーディオは録音が9割』と言う商売気の無さが大好きです。間違いなく日本のオーディオ技術史最大の巨人でしょうね。
RM10Z持ってます
各社プレヴューでは能力は高いものの低音の控えめなニアフィールド向け、みたいな評価だったので実際に聴いてみたら低音がバカスカ出て驚きました
とはいえ私自身もセッティングを追い込めていません
一時期はインシュレーターがミルフィーユ状態でしたが「これではいかん」と改心し、スタンドとスピーカー本体の位置関係や重心をいじって多少マシになりました
ただ、セッティングが決まったときに感じる「ステージ上がったな感」がまだないです
純正スタンドを使ってないせいかもしれませんが(地震の多い地域なので怖くて使えない)
グルマンさまの現在の経験則からRM10Zのセッティングについてなにか提案できることはありますでしょうか?
そうなんです
見かけと全く違う低音がでます
あの特殊な独自構造は本当に才能が底知れません
あのスタンドは確かに不安になる感じですね…
対策としては音に影響が出ないようにセーフティとして緩いゴムやテープなどでスピーカーとスタンドを括る…という方法もあります。
ただかなり工夫しないと今度はビジュアル的に危険です。
次にそれ以外、ですね
フリースタンディング(卓上とかでない)ならばスピーカースタンド必須ですね。このスピーカーは本体を鳴らしたくない路線なので、現在最高のスタンドはside pressでしょう
どうしても箱なりを使わないとダメな設計には向きませんが
卓上だったら言ってください
サイドプレスは以前から気になっていました
使いこなしが難しそうだなと二の足を踏んでいたのですがそろそろ重い腰を上げる必要がありそうですね
アドバイスありがとうございました
面白い読み物をありがとうございます。RM10は検討しましたが、スピーカーの音は素晴らしいのですが、エッジの耐久性が低そうなのと、天才の芸術品ゆえの今後のメンテナンスへの不安感からやめた記憶があります。パワーアンプはとてもよさそうなので、価格的にもリーズナブルでいまだに買おうかなと迷っています。オーディオデザインもパワーアンプはよさそうなのですが、ファンダメンタルには劣るんですね。
確かにもう工芸品ですね
鈴木氏は比較的パワーを入れるタイプなのとウレタンエッジとかではないのでそこは大丈夫だと思いますが問題はネジのトルクの維持ですね…死ぬ前にトルクを公開してほしいです笑
さて、パワーアンプですがオーディオデザインがfundamentalに敵わないのは特性だけではありません。バイアンプなどにすると位相が合わず音場が死にます。元がBTL構成の最新版の話です。初代のシンプルな方が単体でも位相の問題は少なかったです。パーツの方向性の管理や選別してのバラつきの徹底的な管理の問題でしょう。ハイエンドメーカーはそこはかなりきちんとやってます。fundamentalはその『バイアンプやBTLにすると位相がおかしくなりうる』事を間違いなく認識されてらっしゃる。
基本ステサンのペルソナ提灯なのでアレ(爆)ですがでも良い動画なので付けさせて下さい
https://youtu.be/PWPexJGP9vM?si=ISQitfPi6ucflELH
おお、何という企画でしょう…
大変貴重な物です
ありがとうございます
最近このサイトを見つけたものです。
スピーカーはフロア型(トールボーイ含む)で3wayで組むのが常道で、ブックシェルフ(大体は2way)は性能的(特に低域)に妥協したものという偏見を持っておりました。先にMA10を購入しその支配力に並々ならぬものを感じ、RM10Zの導入を決めたのですが、MA10二台の4分の1くらいの値段なので、アンプほど徹底的につめたものではないのではと勝手に思っていましたが、あまりの性能の高さに衝撃を受けました。もしかしたらアンプよりこのスピーカーの方が傑作かもしれません。鈴木氏曰く、もともとは山下達郎の音楽制作用のモニタースピーカーを求められたのきっかけで、音楽鑑賞用としても使えるように設計・製作したとのこと。こんなことができるのも両方を熟知している鈴木氏ならではですね。東京にいると鈴木氏自らが機器を持って自宅試聴しにきてくれるので、製作者とエンドユーザーが直接話せるのも滅多にない機会で、音楽制作の現場情報含め色々教えてもらっています。
読んでいただきありがとうございます
今後ともよろしくお願いいたします
おお、買われましたか!
とてつもないスピーカーですよね
今の自分の力量ならば遥かに高度に使いこなせたと悔恨していますが、とんでもないスピーカーです
まとまり、速度、違和感のなさ、音数、質感のニュートラルさ…これらは家族にも比較試聴して貰いましたがTAD CE1がまるで相手になりませんでした。
使いこなしはなかなか難しいですがリスニングのみならず本来の用途たるモニターとして使ってほしいです
今取り組んでるスタジオの案件にもこのスピーカーは候補として挙げております