モニターにパッシブを流行らせたい1


そう思うんですよ。

何故なら科学の進歩によりきちんと選べば同じ予算なら圧倒的に音が良いからです。この前『予算があらばパッシブ有利とのことですが幾らからならばそうなりますか?』と言う御質問を頂いたのですが色々考慮した上で『20万円有れば確実に覆らない』とお答えしました。

以前ならもっと高い金額になったでしょう。しかし民生用のスピーカーの質が大規模かつ先進的な分析室を備えたメーカーが増えており遥かな進化を遂げつつある事で凄く安価な価格帯でびっくりするほどの音質のスピーカーが出てきています。無論そうでない物の方が多いですけど。そしてその結果癖もなく、ハッキリアクティブモニターの方が遥かに固有音がする物が多いです。

アンプもまたclassDアンプの長足の進歩で極めて安価でありながら以前なら数百万円は優に払わねばならなかった基礎性能を持ちつつウルトラニュートラルなアンプが出てきたこと。これらにより『合計20万円有ったら余程払わないとアクティブでは厳しい音が出せる』様になりました。

しかし何故音楽制作業界がアクティブを使いがちなのか?理由は沢山あるでしょう。そして色々な理由を見聞きしてきました。『変数が少ないので音のキャラクターが保証される』『プロ用機は音が一定』『アクティブしか業界(先輩)が使ってないので他がわからない。』『民生品知らない』などなど。

最もオーディオ史から考えるとモニタースピーカーってパッシブのほうが圧倒的に長く、アクティブが流行ったのは1990年頃以降な上にマスタリングスタジオでは今でもパッシブが多いので『パッシブは業務に向かない』というのはあり得ません。テンモニを除いても長いこと音楽はパッシブで作る事が当たり前だったわけですから。

そしてわざわざ書くだけの強い意義があるのでこの記事に着手しています。だって同じ予算で全く業務用として相応しいキャラクターを持ち圧倒的に音が良い環境が出来るならそういう環境で作って頂きたいですもの。

でも業務用アクティブって最近も改めて結構色々聴いてきましたけども…

民生並みに音の傾向バラバラじゃねえかよ、えーっ!

でもアクティブもパッシブもさらにはアンプよめちゃくちゃ聴いてる人ってほとんど居ないんですよね。例外としては

  1. 音楽製作者でオーディオファイル…業務も民生も聴きます。
  2. マスタリングエンジニアで求道者タイプ…マスタリングスタジオは実際パッシブも多いですからマニアックな求道者なら色々聴いてらっしゃいます。『PMCとmcintosh』という面白い組み合わせのクラシック用マスタリングスタジオもありました。たしかワーナー。
  3. グルマン属…超稀少種。見つけたら積極的に保護しよう。

さて、そんなわけで二回に分けてお勧め製品を書いていきます。スピーカーから。

paradigm monitor Atom SE

5万円でこの音は革命的です。

躍動感と明瞭さ、位相の調いに優れたスピーカーです。monitorと名を関してますが確かにそのような方向性の音です。上位のスピーカーよりモニター的な音とも言えます。むしろ上位の方が『高い金を出させてやる』というハイエンド製品にも見られる意志がある気がします。(悪いとも言えないが)『良い音を出すこと以前に徹底的にニュートラルでありエネルギーもあること』がモニターですので優先順位が違うのです。

なおFundamental社の鈴木氏がカスタムしている物が10万で販売されてますがこれは理に叶ったカスタムです。と言うのもparadigmのスピーカーは軸外特性は素晴らしいのですが何らかの理由で高域が飛び出てるのですよ。かつクロスオーバーあたりが怪しい。そこで高域を下げ、ちょっと不出来なクロスオーバー帯域を弄ってよりフラットにしてます。それと電解コンデンサをフィルムへ換装してます。別物ですが論理的には相当良くなってるはずです。ユニットと箱とフェーズプラグが素晴らしいスピーカーですからかなり期待できます。

ただ北半球最大の測定室を持つparadigmですから何らかの意図はあるでしょう(f特をフラットにするより指向性を整える方が遥かに難しい)

可能性としては…

1.この手のフェーズプラグ付きスピーカーは高音のエネルギー(音響パワー的な)に欠けます。ともすると空気感に欠けます。そこを何とかしているのではないでしょうか?

2.正面向きに置くことを想定している。これはあり得る選択です。が、それは家庭用でありモニターにそんな概念はない。

3.店頭効果(ボソッ)

最もこのエネルギーの分布は部屋の在りかたでまるで変わります

B&Wがイケル部屋ではKEFやGENELECは上手く行かないし逆もまた真でしょう。そんなものはルームチューニング材でちょちょいでゴロリと変わる程度のものです。

そして鈴木チューンは聴いたことありませんが(我輩は元ゴリゴリのユーザーでファンですが)オリジナルの時点でアンプを選べばかなりのアクティブスピーカーは葬れるでしょう。オーディオファイルよりはミックス向けでしょうか?


polk audio R200

無改造atomならオーディオファイルには此方をお勧めしたいかも?

ミックスが『明瞭な可視化』に重きを置くとするならばこれは『大変な品位と音数』です。無論非常にニュートラルでエンジニアリングでも使えるでしょうが。

実売8万円の音ではないです。こっちのほうが驚くかも。でもこの価格帯は受けないかも知れません。高価格帯オーディオ指向の音でかなり聴き方も達観しており、またそれを活かせるセッティングでないと『地味じゃん、バイバイ』で終わりかねません。

此処もまた最大級の測定室を持ってます。

ツイーターが神憑りに歪みが少ないのですね。この1点では値段度外視にして素晴らしい。ただ、良くインシュレーターの話で書いてますが『鋭い歪みは輪郭となり音像の明瞭さやトランジェント感(偽の)につながり好む向きも居る』と言うことです。というのも本来ピストニックモーションスピーカーではトランジェントに劣るのでこうした魔法が功を奏することは少なくはないのです。

その魔法が根こそぎ無いが故に綿密なセッティングが為されないと定位が不明瞭になりかねません。しかしそうして出来た定位はまるで別物になるでしょう。

測定的にも作為の無い本物志向です。私が買うなら此方でしょうかね。伸び代は大きそうです。素直過ぎて良く出来たスーパーツイーターでトランジェントをドーピングしたくなりそうですが。


もっと値段を上げれば色々と選択肢はあるのですがコスパでいうとこの2つが飛び抜けてます。傑作KEF ls50metaの半額ですからね…。あとはただこれらのスピーカーは大抵安価が故にショボいシステムを組み合わされがちです。これらとの組み合わせを推奨される高い駆動力と低歪みでニュートラルな安価アンプとは?

次回はアンプのお話です


“モニターにパッシブを流行らせたい1” への13件のフィードバック

  1. カーオーディオの世界は、今ではパッシブが絶滅危惧種で殆どがDSPマルチの世界なんですよね~。

    自分は、拘りのパッシブですね~。😅

     

  2. グルマン様
    現在師推奨の自作PC(Roon用)+リッピング専用PCからChord DaveとパワーアンプEtudeを経てAudio MachinaのCRMXへ繋いでます。ケーブル類も悉く師推奨のものへ変更済み(スピーカーケーブルを除く)です。上流のPC群のレベルが上がるにつれてDACとパワーアンプが少し物足りなく感じています。パワーについてはお勧めのものを試してみたいと考えていますが、DACについてお勧めなどございますか?

    • 同社のスピーカーは所有していたのでかなりわかりやすい条件です
      さて、これだけ高性能&粗を隠さないシステムだと確かに入れ換えたくなるでしょう。
      パワーアンプもなかなか悩ましく、意外と真空管もマッチングが良いんですよね…透明感とリアリティー、美しさがあります。とは言えここはclassDで基本性能の限界を見てみたくはあります。
      その上でDACですが…EMMかplaybackの出物をお勧めしたいです。安価に手に入ります。共にDSDの根幹を造ったエンジニアの作ですが、EMMはそのまま良くできています。自然さとHi-Fiを共に持ち合わせてます。playback MPD5は未完の大器でそのままだと酷いですが裏を返せば少し手を加えれば(せいぜいゲルとアモルメットコアで大丈夫です。あとQAAの小物)超自然です。この一点では如何なる価格のDACでも届かない気がします。正直コスパでこの二つはずば抜けてます。裏を返せばこれらを安価で殺すことは不可能です。DACは下剋上が一番無い分野です。欠点は共にUSB入力が無くDDC不可避です。新しめのEMMは付いてますけれど。

  3. グルマン様
    いつも強烈な記事ありがとうございます。今回の記事も大変興味深い内容でした。わたしは制作(主にエレキベース録音)とオーディオを別系統で鳴らしているのですが、前々から両者を統合して一系統で両方の用途を済ませられないものかと悩んでおりました。
    制作はMOTU M2→Focal EVO 50。
    オーディオは逢瀬DAC→逢瀬パワー→DYNAUDIO SPECIAL 40。
    という構成になっております。
    今回ご紹介いただいたスピーカーはコスパ重視とのことですが、がんばってペアで50万円くらいまでなら出せるとしたとき、どのような選択肢があると思いますか? ATCとか、数年前に流行ったAmphionとか色々あって悩みます。厚かましくも恐縮ですがグルマン様の知見をうかがえれば幸いです。よろしくお願いいたします。

    • いつも読んで頂いておりありがとうございます
      なるほど、これだけの物をお持ちなら勿体無いですね
      リスニング用の物を製作に是非とも転用して一本化したいです。
      dynaudio special40も家庭用としては良いバランスのスピーカーです。そして多くのアクティブモニターより高いポテンシャルと品位を持っています。が、此処はいくつかプランを考えましょう。
      1.kef Rシリーズmeta
      モニターとしての使いやすさは明らかにSpecial40を上回ります。何より逢瀬の中の人が使っている純正の組み合わせで悪かろうはずがありません。正確でありつつ絶対に聴き疲れさせない組み合わせです。
      2.Perlisten社 (例えばR4bあたり
      THXの最高の評価と認証を受けたスピーカーメーカーです。現有のVOXATIVEが爆発する事があるならば、かつ人生に疲弊したならば私はこのメーカーを選ぶでしょう。値段度外視でグルマンベストアワードの一つです。同軸たるKefの素晴らしさとは別に、逆に同軸構造では得られないトランジェントとエネルギーがあります。

      此処までの二つは確実にATCやamphionを上回るでしょう。ATCもamphionも好きですけど。ATCは密度とエネルギーが良いですね。

      3.サブウーファーを追加
      置ければ、ですが…
      かつ願わくば2台。
      何しろ安い上に何も損をしない方法です。極力お金を使わせたくないのです。
      そして効果は猛烈。
      欠点はスペースとセッティング技能。部屋の条件がわかれば良いのですが。いっそ私がセッティングしたいくらいですが。

      • グルマン様
        懇切丁寧にご返答いただき誠にありがとうございます。大変勉強になります。
        Kefは確かによく名前を挙げられられていましたね。自分ではあまり考えたことなかったのですが俄然興味が湧いてきました。値段も比較的手頃ですし、個人的に同軸大好きなので。
        Perlistenは恥ずかしながら存じ上げなかったです。そこまで高評価されると流石に気になりますが、当方の資力ではちょっと手が出ません。収入が2倍になったら改めて検討したいと思います。
        サブウーファーは常々記事を拝読しており気になっているものの、設置スペースの関係でこれまた難しいのが現状です。
        宅の環境はグルマン様がご覧になられたら全身をかきむしった挙げ句穴という穴から血を垂れ流しておっちにめされるくらい酷いのでご意見を伺うのもはばかれます。お気持ちだけ有り難く頂戴し、あとは記事を読んで勉強と実践をチマチマ続けたいと思います。
        今回の記事の内容とずれますが、制作・リスニングを両立する上で一番のネックは、スピーカーもさることながら、アナログ入力・AD変換だと自分は考えます。プロのスタジオのようにマイクプリ→ADC→DACとするのは一介のアマチュアにはどうにも荷が重く。かといってオールインワンを探すと、入手可能かつ機能・音質的にまともそうなのがRME ADI-2/4 ProかSPL Director Mk2くらいしか思い浮かびません。入口と出口が一番悩ましいです。
        長文失礼いたしました。重ね重ねコメントありがとうございます。今後の記事も期待しております。

  4. 記事を書いていただき、ありがとうございます。
    一括してアンプ部もスピーカーも全部既存のシステムから変えようと思うのですが、
    電源ケーブルとXLRケーブルはこの場合どうなりますでしょうか。ブログ、全記事を読ませていただきましたが…19364が電源ケーブルになるとしたら信号線はどれを選択すべきなのでしょうか。

  5. サブウーファーでモニター用となるとどんなモデルをお勧めされますでしょうか。全て合わせて20とはいかないかもしれませんが。。。

    • モニター用であっても、いやむしろモニターこそ早くあって欲しいのでお勧めは変わりません。
      条件は背面対向です。
      elacの中古なら背面対向であればどれでも構いません。

      あと穴ではB&W Pv1(後継機も含め良い)というものがあります。B&Wではこれが現行含めてベストです。
      ただ位相やタイムアラインメントなどの設定項目が少ないんですよね。そこがネックですが性能は素晴らしいです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です