マルチチャンネルとステレオ 向けのスピーカーに求められる特質の違いとは何なのでしょうか?まずマルチチャンネルというのはスピーカーの本数が圧倒的に多く反射を完璧に制御することが不可能であるということです。
更にはスピーカー同士の相互干渉が強く、最低でも全てが同メーカー、というか同モデルでないと行けません。干渉を受けてf特ガタガタになった物を聴いて満足してるのは悲しすぎる…もっと言えば360RAや最近の規格ならハッキリ言って同軸(ウーファー)以外は論理的に無理ゲーです。
上記から軸外特性の問題がステレオより圧倒的に問題になるのです。水平のみならず従来のスピーカーでは困難な垂直方向までコントロールがなされていないといけません。更に中高域のf特もステレオならばオーディオの達人ならば聴感的に如何様にでも御せますが10本余りもスピーカーがあると流石に癖が耳につきます。要するにいわゆる『spinorama』という指標が超マルチには大切です。
spinoramaに関しては検索して頂くとして、これはステレオに関しては不十分どころではない半端も半端な指標であり精々が『セッティングの技術やルームチューニングの術を持たぬいわばオーディオファイルではない一般人向け』と言える指標です。
ですが超マルチに関しては『全てのスピーカーがリスニングポジションから三次元的、球形に同じ距離』などが必須なので完全なセッティングは無理なのです(といいつつある程度近いことは出来ますけど)ですのでspinorama的指標が比較的大切になります。無論これが高ければOKではありませんが。
テクスチュアのフラットネス、スムースネスは此では測れません(素材に起因する物とか歪みとか)
かつこのブログを読んでいる層は基本的に求道者…『昇ろうとする精神性と漆黒の意志』の持ち主が多いので、方々の配慮をせずにストレートな評価を書こうと思います。
エンジニア様にしろオーディオファイルにしろ『此処までやってくださるのか…』とこのブログを始めてからびっくりしてます。この国のオーディオや音楽制作業界は実は未来は意外と明るいのでは?とも感じました。燦然とした若き才能達が確実に居ます。
さて、超マルチチャンネル向けのスピーカーです。条件は優先順位で上から
- 軸外や周波数特性等が良いこと
- 同軸で在ること
- パッシブであること
となります。3つ目は『出来れば』レベルです。アクティブ率が圧倒的に高いエンジニア様には言いづらい話ですが、極めると余程の特例でなければアクティブは頭打ちになります。良いアクティブ(滅多に無いけど)は『アンプに左右されない一定のサウンドデザインを担保される』事と『ネットワークがない為に比較的駆動力が高い』事があげられます。
前者はいっそ外部にチャンデバやアンプなどのエレクトロニクスを出してくれれば良いのですが…
アクティブの欠点はアンプごと振動にダイレクトに揺さぶられる事とアンプの品質が大抵は宜しくないために『クリアネス、パースペクティブ、情報量、品位に欠け勝ち』な事になります。あと中身は二束三文、一山幾らのアンプなのに馬鹿みたいに値段が高くなるケースが多いです。
そんな中でオススメ一位から
一位 KEF Ls50meta(或いはR3meta)
まあこれでしょう。前述の要素の全てを兼ね備えてます。癖や歪みもなく、拡がりが実に見事です。コンポーネントの音は『科学的技術』と『歴史や経験から造られる物』の合計です。その点、BBCから続く歴史による音作りと科学的なチャレンジを恐れず進み続けた(そして沢山しくじった)このメーカーはようやくその挑戦が結実している感じがします。なお低音はさっぱり出ないので勿論の事サブウーファー…出来れば2台は必須です。
欲を欠いて『メインスピーカーやセンターは3wayで』とかは止めてください。死にます。やるなら全部R3 metaにするとかで。ただ超マルチに必要な『極端な広がり』に於いてLS50は最強なのでそれが完全な上位互換ではないでしょう。難しいですね。
無論パッシブなので良いアンプを当てましょう。現時点だとMarantz amp10とかが一台でお手軽で高音質です。これも特性とサウンドデザインが結実したタイプで癖が無いです。ただこの組み合わせは何処かの段階で響きと暖かみを足したくもあります。
このメーカーの短所は長所と裏表の『無味無臭』なことと、『強靭な音』が出にくいことです。ダイナミックレンジが弱い。マグネットなどの物量あたりなのではないかと邪推。最も多くのスピーカーが『歪みや癖によりダイナミックレンジ感(偽)は強くなる』ので、癖が無いことがダイナミック感の少ない一因でもありそう。しかしお薦め一位は揺るぎません。
二位 ムジークエレクトロガイザイン
このメーカーは実はイメージと裏腹に測定で測れる特性はなかなか良いです。音は録音に忠実な冷静系マイクロスコープではなく『録音現場の熱気を再現する』タイプです。モニターに想定するニュートラル、クリアー、広大なパースペクティブ、というよりもっとアトラクティブ路線です。特にパッシブはこの傾向が強いです。ATCも大枠はそうですが、最近これらが制作業界で流行っているのはある種のルネッサンス的な何かなのでしょうか?
そしてmusikの難しい所が『パッシブの出来が正確性の点ではそんなに良くない』んですよ。アクティブの方が良い。エンクロージュアを殴ればわかりますが剛性が別物で恐らく故意的に音造りの思想が違う。バスレフの造りもかなり違います。パッシブはよりアコースティックに寄せていますが位相や正確性にアクティブより問題がありちょっと超マルチには厳しいです。ステレオではそれを生かす事も可能で何とでもなりますが。
そしてアクティブはアクティブという存在自体の欠点を感じます。前述のクリアネスなどで頭打ちがあるのです。それはKEFでもアクティブは同じことです。
とはいえ超マルチではRL906がムジークでは最適解でしょうか?あと日本の代理店が凄く高いのが致命的な欠点。それだけの予算があればKEF R3 metaで超マルチにした方が確実に高音質ではないでしょうか?
三位 GENELEC
8341などの同軸3wayですかね。
特性はトップランク。奥行きや位相の正確性は高いです。そして従来のGENELECの厭な癖(わかるでしょ?)も比較的減ってます。歴史の浅さからサウンドデザインに難があったメーカーですが進化を感じます。とは言えそこら辺はやはりKEFの方が一枚上手です。なおEQの類いは位相に露骨に問題を来すので使うべきではないです。ルームオプティマイズやサブウーファーでコレを強く感じており広言してきましたが、最近会う制作関係者の方々が皆同じことを言うので僕は『凄いなあ』と思いました(小並感)
正直ムジークとどちらを2位にするか悩みました。実質、同率です。恐らく超マルチの空間性を力を遺憾なく発揮する点ではこちらでしょう。ダイナミクスのあるムジーク、より特性の高さでしか登れない強さのあるGENELEC。でもこの予算があればKEFなら諸々に予算を割いて凄いシステムが以下略
四位 TAD ME1
これで例えば360RAだのatmosだのをやるのは設置的にキツイです。1本20kg、GENELEC8341の倍。ですが大変な傑作スピーカーなのでランクイン。このメーカーは値段と音質が全く比例しません。繋がりとエンクロージュアの剛性等の全ての兼ね合いが奇跡的です。他のスピーカーを見てのメーカーの思想からするに恐らく偶然に近い産物なのでこれ以上のスピーカーは造れないでしょう()
理屈で言うならミッドが9cmと言うのが良いのでしょう。(これより上は14cm)。ベリリウムという超軽量ツイーターに同軸というある意味理想のコンストラクションが故にツイーターとミッドの口径の隔たりが非常に不自然に感じるようです。具体的には鈍重さと強い癖として感ぜられます。
トランジェントとダイナミクスは他と隔絶します。測定値も良いです。今調べたら遥かな上位のCR1より良いです。覚悟が有らばどうでしょう?
“超マルチチャンネル向けスピーカー” への13件のフィードバック
更新お疲れ様です!
LS50 Metaが最強と。
これの9.4.6chマルチとか聴いてみたいですね。
サブウーファーはやっぱりElac?
まさに依頼の案件でそういうスタジオを造る所だったりします
KEF代理店がやってくれればいいのですがそれだけのスキルというか人材が居ないんですよね
サブはやはりELACかarendalですね
輸入に抵抗なければarendalのほうが今ならお買い得です
TAD ME1+arendalのマルチチャンネルも聴いてみたい気はします。夢のマルチチャンネルw
GENELEC、某音響スタジオさんはこれ使ってますね。
センターchは無いものの(見当たらなかった)、天井に4ch埋め込みしてましたね。
収録位置的には問題無いのかそこは音響監督が何故か中央でなく左側でしたね。
KEF/LS50 Metaは意外ですが、同軸配置強しですね。
atmosならば『中央でなくとも狙いどおりにしなければならない』という意図があるのかどうなのか?
360RAではatmosと違いもっと球面でのガチガチのオブジェクト再生の仕組みだからかそれを使い倒した作品だとやはり中央に居ないと意図がずれますね
やはり同軸は強いです
アクティブは頭打ちになると仰ってますが…同価格帯でパッシブとアクティブだとパッシブが勝つケースというのはどのあたりからでしょうか?セッティング等を詰めた後の話だとは思いますが…
これはとても難しく、書いていて100行近くになったのでコメント欄としては冗長なので消してシンプルに書き直しました
アクティブvsパッシブ+アンプの金額の対決として考えましたが恐らく此の世でコスパ最高のアンプは1ET7040SAを使用したものです。基礎性能は超弩級で数百万のアンプを凌駕します。駆動力が桁外れなので(200V入力が望ましい)スピーカーを選びません。これが1000~€1400で買えますのでこれを基準とします。
スピーカーですが今私が低価格帯で圧倒的な評価をしているものがパラダイム monitor SEという製品で4万円台ですが恐ろしくバランスの良いニュートラル極まる音です。10倍の価格でも通用します。
更にpolk audioのR200は極端に地味な音ですが大変低歪みな高性能ツイーターでとてつもない情報量が出せます。これは価格無制限でも凄い長所ですが歪みのなさが故に音を細かく分解してかかるので従来の歪みが強く音数が全く取れてないが故に『塊で聴く』というアクティブモニター環境に慣れていると面喰らう可能性があります。これは8万円台ですが音質傾向はハイエンダー向きです。
パラダイムで考えても20万円あればパッシブは相当な音を出せる事がわかります。恐らく御想像の遥か上でしょう。これにアクティブで勝つ事はそれが幾らであっても品位、自然の音の摂理の再現、音場の問題で難しいと思いますreproducerとか新しいモニターも聴いてますがこれらの概念が無く、特に品位が厳しく私には2小節も聴いてられません。これに勝ちつつモニターに相応しいニュートラル性を与えるだけならスピーカーとアンプを併せて10万でも余裕そうです。
サブ候補として以前から気になってたのが正にSE ATOMとR200そしてLS50metaなので驚いてますが比較等更にこの3機種を掘り下げたお話お聞かせ戴けませんでしょうか?
あとFounder40Bはグルマン様的にはどのような感触ですか?
さすがです
恐るべき偶然、ではなく必然でしょう
相当の数を聴いた上で残った猛者達です、これらは普遍的な物を持っています
そしてかなりフラットな聞き方でいらっしゃる
次回の記事で掘り下げます
そしてfounder40bよりatom SEの方が多くの環境で良さそうです
自然さとバランスに劣ります
ウルトラハイを強調しがちで『空気感があって高級な音だわあ』と思わせる『ハイエンドの文法』です。最もデッドな部屋なら或いは、ですが。
paradigmという技術がある会社が『オーディオ界に蔓延る悪しきマーケティングによる音の造作』がない直球がAtomなのではないかな、と思います。
お忙しいところご回答本当に有難う御座います
いえいえとんでも御座いません単なる若輩モノ故にお恥ずかしい限りで…
ATOM手強いですね!鈴木氏の手掛けたバージョンまであるので更に気になり夜も眠れなくなりそうです笑
いつも厚かましくて恐縮ですが記事楽しみにしてますね
またフローティングの記事も心より感謝してます!その後お陰様でウェルフロートには疾走らずゲル遣いの路に進めました
ああ、確かに鈴木氏もカスタムしてましたね。気持ちは大変わかります。ベースがとても良いので私もやりたくなりますもの。
ゲル道に入信してしまいましたか
詰まりましたらいつでも御質問ください
ご返信ありがとうございます。
百行のバージョンも可能なら拝見してみたいですが…
まとめてまでいただいて本当に感謝しております。お時間いただきました…
中古のEgg 150を考えてたのですが、その予算で仰って頂いたアンプとスピーカーを買えそうなので、考え直そうかなとも思ってます。
記事にして長く書いてみようと思います
egg150ですか…あれはアクティブと言って良いのか?
パッシブマルチアンプセットのように見えますな…
以前あまり良い環境ではありませんが聴いたことはあります
しかしお勧めの組み合わせは必ずやegg150に勝つでしょう。(全くレベルが違います)